イベリア半島のほぼ80%を占めるスペイン。北はピレネー山脈を隔ててフランスと接し、南は地中海を挟んでアフリカと向かい合う。昔から多くの移民が侵入し盛衰を繰り返してきた。2002年のユーロ導入を期にも数多くの移民が移り住んでいる。約30年前までは反民主主義のフランコ独裁体制により、各地の個性豊かな言語や文化は禁止されていた。カタルーニャ地方の州都バルセロナも例外ではなく、その中でも独自の歴史と文化を育んで来た。多くの移民や様々な文化、歴史の影響は音楽へも大きく、ルンバカタルーニャをベースにパンクやレゲエ、ロックやクンビア、アフロに、またはジプシーまたはインドやキューバなどの様々なジャンルが混ざり合った混血音楽(ミクスチャー/メスティーソミュージック)がスペインから生まれている。そして日本初、バルセロナ発信メスティーソミュージックシーンを一気に堪能できる作品を渡辺俊美がコンパイル!「MUSICA INOCENTE〜罪のない音楽」が遂に完成。実際にバルセロナまで足を運んできた本人から、旅をして感じたスペインバルセロナの音楽について聞いてみました。
「ムシカ・イノセンテ」完成しましたね。何かテーマを持って選曲したんですか?
タイトルになってるじゃん。「罪のない音楽」。こういうのを入れたいっていうアーティストはあって。10組くらいのアーティストは選んでて入れたいなっていうのと、あとは聴いてから、「これ!」って感じで。
俊美さん自身はこの周辺のミクスチャーシーンへはどういう経緯で入っていきましたか?
やっぱりマヌ・チャオ。元を正せば、ザ・クラッシュ。クラッシュもミクスチャーなんだ。レゲエを取り入れたり、ジャンプ/ジャイブ、ロカビリー。「ロック・ザ・カスバ」ではディスコでしょ。パンクという定義の意識はあったけど、ジャンル的なものとかはどうでもよくて、やっぱりそういうミックス感は昔から好きだったかな。ヒップホップ好きだった時もラガマフィン・ヒップホップが好きだったりとかね。なんかダンスホールです、とかヒップホップです、っていうよりは何か混ざってた方が好きだよね。80’sの時は、例えばカルチャークラブとかポップスでレゲエもやったり、テクノもやったりとかね、そういうのが元々好きなんだよね。
そしてマヌ・チャオといえばマノ・ネグラ。あとレ・ネグレスベルト。ミクスチャーのはしりっていうか、フランスの2大バンドっていうかな。
レ・ネグレスベルトもレディオ・チャンゴに入っていますね。
リミックスにマッシヴ・アタックとかも早かったね。いまでも古くないんだよね。民族音楽を主体としたレベル・ミュージックが根本にあって、でも新しいものを創りたいっていうそういう気持ち、姿勢がミクスチャーなんだと思うんだよね。スーツを着てああいう事やったりするのもカッコいいよね。
去年バルセロナに行かれましたよね。街の感じもふまえて、音楽シーンとかはどんな印象でした?どんな風に感じてきました?
ピースな感じ。なんだろうな、それほどみんな熱い怒りというかそういうのは感じなかったね。熱くなるのは音楽やる時だけで。ただ日常、街にはスケーターが沢山いて、もうその時点でレベルって言ったら変だけど、スケートやる事が反抗的な感じじゃん。
路上でミュージシャンとか見かけましたか?チェ・スダカのDVDでは路上演奏を警察に止められてたり、最近では広場に監視カメラが設置されたみたいな話も聞きましたけど。
俺も路上でギター演奏したり撮影したりして警察には止められたけど、そんなのどこにでもある話で、都会なんだよね。東京で同じ事してたら怒られるのと一緒で。東京となんら代わらないんだけど、何が違うんだ?っていうのを観たいが為に行っただけだから。そもそもライブも観れたらラッキーなくらいでね。
そこで感じたのは、幅が広いっていうか、子どものスケーターもたくさん遊んでたし、おじいちゃん、おばあちゃんも働いてるし、そういうのが街全体から見えるっていうか、東京だとおじいちゃん、おばあちゃんが働けない環境になってるじゃん。子どもも遊ぶ所がストリートじゃなくて、遊び場ってなってるじゃん。じゃなくて街の中でみんな駆け回っているみたいな。治安が良いって意味では平和だな。元気だし。
音楽を聴いていてスペインに行く前と行った後でのイメージはどうでしたか?
ギャップあったよね。そんなみんなおしゃれじゃない。(笑)そんなのどうでもいいっていうか、おしゃれな街なんだけど着飾ってるとかじゃなくて。ホームページとかみると凄くセンスが良いじゃんか、洋服とか無駄なものに金はかけない、着れればいいぜみたいな。着飾ってないんだよ。
レコード屋とかクラブとかの文化はどんな風に感じましたか?
みんな個々で小ちゃくやってる感じ。ラトロバ・クンフーのライヴを観に行った場所も、なんもやってない小屋を一日だけライヴ会場にしてステージを作り上げるような、そういうノリだったね。
流行っている音楽は?
ラトロバ・クンフーでかかっていたのはCaribbean Dandyでかかってるのと変わらない。レゲエが多かったな。
街全体的には?
やっぱり目につくのはのはレゲエかな。U Royとかブラック・ウフルとか、ルーツ。そこは日本とあまり変わらない。ライヴ会場では客層も幅広くて年配の人でも踊ってたね。なんだろ、楽しんじゃえばいいんだよって。例えば、日本だとそういう場所に着いたら、ロッカーに荷物入れましょうとかあるじゃん。違ったね、みんな地べたに置いてたもん。盗らないだろうって、盗ってもいんだろうけど、あっ盗っちゃだめなんだけど(笑)、そんな事どうでもいい。それとローリング・ストーンズ級のバンドとかだったらセキュリティー/警備とか必要だけど、全然みんな友達みたいな感じだったもんね。過剰だよね日本はね。
それでお客さんとミュージシャンとの隔たりが出来ちゃってる感じありますよね。
そうだね。余計なスタッフいないっていう感じ。そういうのがDIYだし気になったね。
レディオ・チャンゴはこのシーンを語るのに外せません。
今チャンゴ・アーティストって375バンドくらいいるのかな。日本でそういうサイト/場所あるかっていったらないじゃん。世界的なレベルで考えると、ちゃんと考えを持って音楽と対してる人が聴いてる感じがするね。何かしら自分はこういうのが好きなんだ!っていう人たちが聴いてるって感じる。
横のつながりが素晴らしいなって思うんですけど。いろんなバンド同士でアルバムに参加してたり、一緒にツアー回ったりとか。
日本だとどうしてもね縦社会なんだよ。解説にも書いたけど、単一化っていうか広まらないんだよね。システマチックでね。うちの息子は美術部なんだけど、吹奏楽部も入りたいと。でもダメなんだよね。なんでできないんだ!って。やりたいことやらせりゃいいんだよ。何の決まりなんだっていう。
個性を生かしてとか言っておきながら。
全然個性なんか生かせない、ひとつしか選べないと。いろいろやって、サッカーなのか、何がいいのかわかる訳じゃん。いくつ参加してもいいですよってね。どんな目的なんだよな。大会なの?勝ち負けなの?で団体行動も含めかなり矛盾してるよね。
日本の音楽業界もシステマチックですよね。こうじゃなきゃダメみたいなのありますね。
営業とか宣伝広告とかね。
レディオ・チャンゴに関しては、そういうメジャーな事じゃなくて新しい広め方みたいのが確立されてて、国境関係なく自由に広まってるし、それが可能だって示してくれてますよね。
そうだね、だけどそこに入りたいっていうよりも、その姿勢が素晴らしいなって思って。それはTHE ZOOT16とかEKDとか先輩後輩じゃなくてね、同じ考えを持っている人達と、そういう事が出来たらいいのになって思うし、やってると思うんだけど、周りにいるかいないかだけでね。まぁいると思うんだよ。かといって呼びかけるわけでもないんだけど。俺次第だと思うんだけど、マヌ・チャオがバックパックで旅するのと一緒で、そういう事でコミュニケーションを取った中で、自然に生まれてくるものであって。それが全部ツアー計画立てられてて、これが対バンですって与えられてこなしているだけでは、仲良くなれません!てことだよね。お金も絡んでくるだろうしね。そう言う事なんじゃないかなあ。
俊美さんはミュージシャンとして、そうやってつなげられて行くし、ZOOTはお店としていろんな人が集まってつながって広がって行けたら、日本も少しは変わるんじゃないかなって思うんですね。お店に立っていて思うんですけど、Z16とかSOULSETのファンでね、もっとその俊美さんが好きな音楽だったり、影響されてる音楽だったりをね、掘り下げて行ったら面白いのになって思うんですよ。JAZZのコンピ『INTERPLAY』もそうだったんですけど、これもいいきっかけになってくれたらと思いますね。それに聴いた事のない人にもわかりやすい選曲ですしね。
特別なものじゃないからな。俺の中ではこういう曲好きだしね。入りやすいとも思う。とにかく聴いてもらえればね。ジャケットもいいし。(デザインby RE aka EazyBoy ) それと後ね、ライナーを書いてて感じたのは、単純に生活の中でみんなスペイン語に慣れてるようで、慣れてないよね。例えば、ジプシー・キングスの『ボラレ』って曲あるじゃん。民謡、古典みたいな感じでさ、メディアからも流れるし耳に入ってくるじゃんか。でもさ、キングスの他の曲は知ってるか?っていったら普段聴かないもんね。使われてもないし。
鬼平犯科帳には使われてますよね。でも、それくらいかもしれませんよね。確かに普段耳にするのはね。機会が少ないですね。
(笑)
昨年夏にフェルミン・ムグルサとのライヴで対バンしましたけど、何か感じた事ありますか?
愛
愛!
うん。
ライヴの後に話してくれたのが印象的だったんですけど。
うん。みんな怒ってねぇんだなって。攻撃的ではないよね。でもジャケットとかさ、見るとわかるじゃん、花柄じゃないのは確かじゃん。
みんな雰囲気柔らかいですよね。
うん、柔らかい。格好つけてないんだよ。いい人なんだよ。
フェルミンはバスクの活動家としても代表格のミュージシャンですもんね。
余裕があるよね。いい人。そういう所が伝道るところじゃないかって思う。
ラトロバ・クンフーもそうだったんですよね。
うんそうそう。
ライヴ自体どうだったんですか?
うん1曲目から上半身裸みたいな。どんどん脱いでくみたいな。みんな楽しむんだよね。みんな友達みたいなね。で演奏ムチャうまいんだよ。
どのバンドもオリジナリティーありますよね。いろんな音楽だったりアーティストの影響を受けているんだけど、各バンドのアルバム聴くとどれも真似てないっていうかね。バンドらしさが出ていますよね。
20年くらい前にはじめてヒップホップが入ってきて、みな同じに聞こえた人もいたと思うけど、何が違うのか、違いが分かってくるのは、やっぱり探求しないと分からないと思うんだよ。だから、今回のバルセロナ産ミクスチャー系で日本発のコンピは今までにないと思うから、是非探求してもらいたいよね。
アッパーな曲以外にも、ミディアムテンポのとかね、大人な感じのもつくりたいな。他にもミュージシャン的に素晴らしい演奏も一杯あるわけ、エンジニア的にダブの感じがかっこいいやつとか、サウンド的にすげーイイ曲とか。いろいろやりたいなって思うよ。
そんな中でも好きなミュージシャンは誰ですか ?
やっぱり、アルコール・フィノは全体的に好きだね。アルバム的に好きなのはZULU 9-30。あれチョーいい。全部イイ。みんないいに決まってんだけど、チェ・スダカの新しいアルバムもいいよな。昨年のベストアルバムにも入れたもんな。(ちなみに)ゴーゴル・ボルデーロ『SUPER TARANTA』、フェルミン・ムグルサ『EUSKAL HERRIA JAMAAIKA CLASH』、チェ・スダカ『Mirando El Mundo Al Revez』、ムチャチート・ボンボインフィエルノ『Visto Visto』とマヌ・チャオ『LA RADIOLINA』の5枚を書いたもん。それだけでお腹一杯。
ムチャチートの二枚目の日本盤はライナー書かれましたけどいいアルバムですよね。またちょっと他のバンドと違う感じもするんですけど、どんな所が好きですかね?
かわいいよ。(笑)かっこいいっていうか。ちょっとエンタメ入ってるけどね。
だから、ビジュアル的な部分もあるかな。逆にG5はそれはないっていうかね。
G5は今回収録できなかったけどね。
チェ・スダカも本当素晴らしいバンドですね。
今回はね、3枚目のアルバムの中からは入れなかったけど、代表曲っていうか、
「Sin Papeles」を入れたんだけど、あれ入れないとアルバムが全体的にカミソリっぽいんだよね。(笑)イントロで切られる感じがしたからさ。
しかしチェ・スダカは、カバー曲の選曲のセンス素晴らしいですよね。『EsperanSaharaui』というコンピに収録されてる「Don't Let me Be Misunderstood」 Che Sudaka & Papa Dee「(邦題)悲しき願い」とかね。
http://www.myspace.com/chesudakastyle
センスっていうか、みんなで歌える感じとかね。でもやっぱり、狂騒感はあるよね。狂気な感じ。かっこいい。火の玉小僧みたいなね。
収録できなかった、ラ・ペガティナとかもいいですよね。
あとなんだっけ、G5もそうだし、あと『マリアッチ・ブギ』の曲もね。入れたかったんだけどね。
BAR MARIATCHIに行かれたんですよね。
行ったんだけど、シャッターの下が少し開いていて、開けてもらったんだけど、
中でパーティーやってて、でも身内しか入れないよって言われてね。入りたかったんだけど。音は聴こえてるんだよ。でも確かに恐かった。(笑)
良いコンピレーションですね、『マリアッチ・ブギ』。
ね。
Z16で対バンしたいと思うバンドは?
全部でしょ。まずその前に全部観たいよね。
いろんな人に聴いて欲しいですね。どうしたら聴いてもらえるんだろ。(笑)
こういうのが王道になったり、広まったら日本も少し変わるんじゃないかなって。変えられるんじゃないかって、ズーっと思ってますけどね。
地道にやるしかないよね。なぜなら好きでやってることだからさ。だけど、もうちょっと毛が生えたいよね。(笑)続けていくことが大事だよね。
Z16は今年はどんな動きになりそうですか?
どうすっかなぁ。
そろそろ新曲聴きたい感じじゃないかと。
ずっと考えてるんだけどね。でも、マヌ・チャオは、前のアルバムから6年じゃん。俺も自分の中でも第二期じゃないけど、あるんじゃないかなと思ってんだけど。やさしい歌っていうか、レディオ・ベンバにかなり影響されて、バンドってなったけど、そういう事でなくても、いつでもどこでも出来る様にしたいしね。
作りたいねぇ。
俊美さんはいつも、常に何かを吸収しようとしますよね。
今日もね、同じ場所には来てるけど、同じ店には入らない。自分に老舗つくっちゃうのはまだ早いなぁ。そう言った意味で、ここしかないっていうのは自然とあるんだけど、例えばズートみたいなお店があるかっていったら、ないじゃん。レコ屋巡りはみんないっぱいするだろうけど。それと一緒で鰻屋でも鰻はうなぎで同じでも店主で違うわけよ。人が作ってるから。答えはそういうところにある。自分の中でいくらTHE ZOOT16と言っても、おれが立ち止まっちゃうとね、ダメじゃん。分からないけどとにかくおもしろいものやりたいんだよ。
最近だと時代小説とか読んだりして、着物とかね興味があって。このコンピのなかでも必ずスパニッシュ・ギターが使われていたりして、スペインの代表的なね。外せないものってあると思うんだけど、それって何なのかな?って。
この前TVで横笛と、鼓のバランスがチョーやばくて、かっこいいーっ!てなって、かといってそういうのやるのかって言ったら、やらないんだけど、だから、そういうのも含めてね。常に好奇心というか。
EKDの2ndには日本の竹田の子守唄を独自にアレンジしたりしていて良いですよね。ああいう事じゃないかって思いますけど。自分たちの産まれた土地だったり、日本だったりに誇りもって行けたらいいですよね。揺るぎないものをね。
ポーグスとかもそうじゃん。誇りに思ってるよね。だから俺もそういうのを含めて、演歌なのか(笑)民謡なのか(笑)全然いいな。サブちゃんのものまねとかじゃなくて(笑)
イベントやりたいですね。これは太陽の下でガンガン踊りたいなって思いますけど。
そうだよね。フェスとかでZOOTプロデュースでやりたいよね。やらせてくれねぇかな。昼間。ああいう所いくとラテン聴きたくなるしな。
最後に何か言っておきたいことありますか?
レディオ・チャンゴのホームページを始め、是非いろいろとチェックしてほしいね。
レディオ・チャンゴ http://www.radiochango.com
2000年の終わり、バルセロナを拠点に3人の人物がたくさんの人たちと「ミクスチャー」の音楽と情熱を分かち合う為に、立ち上げられたサイト。国境のないリズムや、飛び出すようなメロディの混交、意志を持った叫び、世界への不正義への視線を分かち合おうとして。5カ国語で訳されている。